Interview No.3 – 梅澤 高明氏|作図の労力と時間は最大限省力化。重要なのはデータを読み解く力

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ビジネスのルールにも大きな変化が起きて、さまざまな戦略が必要とされる時代。

一流の戦略コンサルタントは、どのようにデータを読み解き、伝えるのか。think-cellの10年以上のユーザーであり、A.T.カーニー日本法人会長/シニアパートナーの梅澤高明氏は、日米で活躍するトップ戦略コンサルタント。そんな梅澤氏に一流のビジネスパーソンに必要なデータ分析力、伝わるビジュアライゼーションとは何かを語ってもらう。

戦略を立てる上ではロジックも大切ですが、まずはデータをどう読み解くかが重要です。
ロジックというのは、さまざまなファクトや要素をつなぎ合わせてつくり上げるもの。
ですから、そのひとつひとつの要素が何を意味するのかを、データからしっかり読み取ることが基礎となるのです。

作図は、あくまでもその後の作業。
読み取ったデータを誰が見てもわかりやすいように可視化する。それが作図の役目です。

優れたビジネスパーソンの要件の一つは、定量データのセットから仮説をつくれること。
グラフにいちいち作図をしなくても、エクセルのデータテーブルから重要項目を読み取って仮説をつくれるようになれば一人前だと思います。

僕がデータテーブルから数字を読み解けるのは、これまでの経験と訓練があるからです。
日産自動車時代から始まり、MITのMBA留学時代、A.T.カーニーの戦略コンサルタントとして、様々な場面で山のようなデータと格闘してきました。そのデータから何を読み取り、そこからどんなメッセージを伝えるかということを繰り返しやってきたと言えます。

例えば単純化した例でお話しすれば、売上高、営業利益、純利益が時系列で並ぶデータテーブルがあったとします。
そこからすぐに、「売上高も営業利益も右肩上がりで伸びている」ことが分かったと仮定しましょう。
でも、そのときに頭の中で簡単な割り算をして、営業利益率を出してみたらどうなるか。データ上は一見、全ての項目が伸びているように見えても、頭の中で出した営業利益率が下落傾向だったら、そこから読み取るべき仮説はまったく違ってきますよね。

もしくは売上高も営業利益も伸びていて、営業利益率も変わっていないとします。
しかし、ある年では純利益が大きく落ち込んでいるところに着目できるかどうか。
そこに着目できれば、必然的に「これは何の特別損失だろう?」「その特損にはどんな背景があるのか?」と深掘りすることになります。

そういう頭でデータを見ることができれば、いろいろな気づきがあるし、それを掘り下げて何らかの発見をすることができます。これが戦略づくりの肝となる。きれいにデータを作図する時間があるなら、そうやって頭を使ってデータから意味を読み取り、仮説をたてることにこそ時間を費やすべきです。

逆に、自分でデータを読み取り考える作業をせずに、think-cellのような自動で作図してくれるソフトを使うだけだと、そのデータに潜む重要な意味には気づけないかもしれません。
要は、効率アップのための作図そのものの自動化には大賛成ですが、前提となる考える部分は自動化ではなく、自分の頭でやらないとダメだということです。

A.T.カーニーではグローバルでthink-cellを標準使用しているので、僕はもう10年以上のthink-cellユーザーです。
もちろん、そのメリットもよく理解しているので、自分でプレゼン資料を作るときはthink-cellをよく活用しています。

think-cellが便利なのは、作図にかかる時間を圧倒的に省力化できること。
資料作りはもちろん締め切りがあって、翌日までとかタイトなスケジュールで作らなくてはいけないことも多くあります。
僕の場合、講演の前夜に、追加で資料を作らなくてはいけないときに、think-cellで作図をすることもあります。
それくらい時間がないときは、think-cellがなかったら作図はあきらめて、箇条書きだけで済ませると思いますよ。

そもそも、なぜグラフが必要なのか。オーディエンスは、データテーブルの数字を見ただけで説明を理解できるほどリテラシーが高い人ばかりとは限りません。どちらかというとエクセルのデータをパッと見ただけでは、そのデータの意味を読み取れる人のほうが少ない。

そういう幅広いオーディエンスに向けて、メッセージをわかりやすく伝えるには、テーブルではなくグラフがあったほうが断然いいですよね。

ただ、ここで間違えてはいけないのが、グラフィカルに凝ったグラフをつくることが大事なわけではないということです。作図にかける時間があるなら、そこはthink-cellに任せて、データの読み取りや仮説づくり、あるいは人に会って仮説を検証しに行くことを優先すべきです。

僕の場合は今でも自分で手を動かして作図をすることがありますが、企業のトップでそういうケースは稀でしょうね。
だから、部下が作った資料について、グラフの見せ方に色々注文を付けると、部下は作り直してまた確認に行く。そんな非生産的なことが起こる訳です。
プレゼンでグラフを示してメッセージを語る本人が、自分でグラフを確認しながら、見せ方を微調整する方が速いし、部下との余計なやり取りも発生しないので効率的ですよね。そのファインチューンは自分ですべきことだと僕は考えています。

think-cellを使えば、魔法の杖のようにどんなデータも資料として優れたものになるのかというと、それは違います。

僕はthink-cellが自動生成したグラフをそのまま使うことは、まずありません。必ずthink-cellが作ったグラフや図に、自分の仮説を裏付ける工夫をしてファインチューンします。

例えば、重要な数字やキーワードにハイライトをつけたり、そのデータから伝えたいメッセージをヘッダーに書き加えたり。そうすることでソフトウェアに頼りきるのではなく、自分の考察が反映された質の高い資料になっていきます。

「資料はたくさんあるほうがいい」と思い込み、ページの量産に走るビジネスパーソンも少なくありません。
しかし、それでは情報過多で見る方の注意も分散し、結局、伝えたいことの本質が見えなくなってしまいます。外部に提出する資料ならまだしも、社内資料でファクトブックを量産するくらいなら、データテーブルで直接、仮説を議論するほうが分析スキルの訓練にもなるし、ずっといい。

もし、僕が経営者で、自動化で簡単に作図できるからと社内資料を50枚も作ってきたら、クビにしたくなるでしょうね(笑)。

作図を自動化・省力化するthink-cellはどんどん取り入れるべきですが、それだけで優れた資料が作れる訳ではありません。think-cellで簡単に作図できる分、データを自分で読み解き意味を抽出することに労力を費やすこと。そこがポイントだと思います。

梅澤高明 うめざわ・たかあき
A.T.カーニー日本法人会長/シニアパートナー

東京大学法学部卒、MIT経営学修士。
日米で25年以上にわたり、戦略・イノベーション・マーケティング・組織および都市開発のテーマで企業を支援。
国内最大級の都心型イノベーション拠点「CIC Tokyo」(CIC - Cambridge Innovation Center: 米国でのスタートアップ向けの大型シェアオフィス・シェアラボ事業のパイオニア)の立ち上げも主導。観光、知財戦略、税制などで政府委員会の委員を務める。
著書に『NEXTOKYO 「ポスト2020」の東京が世界で最も輝く都市に変わるために』(共著、日経BP社)、『最強のシナリオプランニング』(編著、東洋経済新報社)ほか。

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